こんにちは
カクテルはお好きですか?
私は最近外で飲むことが少なくなって、本格的なカクテルをしばらく味わっていないなぁーと気がつきました。カクテルって美味しくて色が美しいだけではなく、その誕生にまつわる物語があるのが魅力的です。時には情熱的に、時には偶然に生まれた一杯が、何十年も何百年と人の記憶に残り受け継がれていく。とってもロマンチックなお酒だなと思っています。
今日はそんなカクテルの名前になった画家の話。
ヴェネツィアの午後に似合う一杯
ヴェネツィアの夏の午後、運河を渡る風が心地よく頬をなでる。
そんな情景にぴったりなのが、白桃の優しい甘さとプロセッコの爽やかな泡が織りなす「ベリーニ」というカクテル。
このカクテルが誕生したのは1948年、ヴェネツィアの名店「ハリーズ・バー」。オーナーのジュゼッペ・チプリアーニが、香り高い白桃をピューレにし、地元のスパークリングワインと合わせたのが始まりでした。
淡く繊細なピンク色を眺めたとき、彼の頭に浮かんだのは、ある画家の作品。柔らかな光と豊かな色彩に包まれたその絵には、どこかこのカクテルと通じるものがあった。
そうして、この美しい一杯には、ヴェネツィア・ルネサンスを代表する画家の名がつけられた——ジョヴァンニ・ベリーニ。
ヴェネツィアの色彩の魔術師、ジョヴァンニ・ベリーニ
ヴェネツィアの画家は、色が魅力的だと言われます。
ヴェネツィア派の巨匠の全盛期、たとえばティツィアーノやジョルジョーネにも受け継がれ、ヴェネツィア美術の礎を築いたのが、ジョヴァンニ・ベリーニ(Giovanni Bellini, 1430年頃 – 1516年)です。
彼の絵にはやわらかな光が差し込んで、人物や風景がまるで空気をまとっているような繊細なグラデーションで描かれています。
私はヴェネツィアで彼の絵をこの目でみて、その美しさに言葉を失った・・・(大袈裟なようですが本当にこういう瞬間ってあるんですね・・・)
それがこちらの絵。
(画像を見ても、私の驚きは全く理解できないでしょうねー。これでは色の美しさが完全に消されてしまっています)
『聖ザカリア祭壇画』(1505年)、サン・ザッカーリア教会 (ヴェネツィア)
彼の絵は大学の授業でも登場していたし、本でもしょっちゅう見ていて綺麗だなとは思っていましたが、実物は全く全く別物でした。
衣装のグラデーションは、絵具が布に染み込んだかのように自然で、色がただ重ねられているのではなく、「光が宿っている」ように感じられました。どうすればこんな質感が生まれるのか……。
教会の祭壇に飾られたその絵は、建物と一体化するかのように、まるで壁が奥に広がっているような錯覚を引き起こします。どこからが絵で、どこからが本物の建築なのか。絵の中の静寂と現実の空間の間を、ゆっくりと行き来してしまうのです。
この絵には悲しい歴史もあります。ナポレオン軍がヴェネツィアを占領した際、フランスに持ち去られ、木の板から表面を剥がされ、キャンバスに移植されました。その経緯の中で、上下がカットされたり、元々の祭壇ではない場所に嵌め込まれているようです。(悲しいですね・・・)
でも、500年たった今もあんなに美しい色彩を見せてくれるなんて・・・
意味もなくふとヴェネツィアで息を呑んで立ち尽くした瞬間を思い出すことがあるんです。いつかまた、あのグラデーションを確かめに行きたいなと思ってます。
今日はヴェネツィア・ルネサンスの画家、ジョヴァンニ・ベリーニをご紹介しました!